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熊本地方裁判所 昭和50年(行ウ)12号 判決 1980年1月31日

原告 村上庄二

被告 熊本地方貯金局長

代理人 泉博 幸良秋夫 中山章 上田八洲男 ほか四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告が原告に対してなした昭和四八年六月三〇日付け戒告処分はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和三〇年六月一三日事務補助員として熊本地方貯金局に採用され、その後、臨時補充員、事務員を経て、昭和三九年一〇月一日郵政事務官に任命され、同局恩給課において勤務し、昭和四八年三月二六日同局第二貯金課に配置換えとなり、引き続き同事務官として同局に勤務し、また被告が主張する本件処分理由該当行為(以下「本件非違行為」という。)当時全逓信労働組合(以下「全逓」という。)熊本地方貯金局支部執行委員の地位にあつた者であるが、被告(なお、当時被告の職にあつた者は大塚義男である。以下同じ。)は、昭和四八年六月三〇日付けで、国家公務員法八二条三号に基づき、原告に対し懲戒処分たる戒告(以下「本件処分」という。)をした。

その処分理由とするところは、処分説明書によれば、「熊本地方貯金局第二貯金課勤務の者であるが、昭和四七年一一月二四日第一貯金課事務室入口付近において、会議出席のため次長室におもむこうとする恩給課長の行手前面に立ちふさがり、他の数人とともにスクラムを組む等して、長時間にわたつてその通行を阻止等するとともに、その主導的役割を果たしたものである。」とされている。

2  しかしながら、本件処分には以下の違法事由が存し違法であるから、右処分は取り消されるべきである。

(一) 原告は本件非違行為を何らしていないから、本件処分は違法である。

(二) 本件処分は、原告ら全逓熊本地方貯金局支部(以下「組合」という。)組合員(以下「組合員」という。)において、年金恩給等の年額改定事務(以下「年額改定事務」という。)処理につき無資格の非常勤職員に審査印を交付するという違法行為をした熊本地方貯金局恩給課長亀井正人にその是正を要求するためなした時間外の正当な組合活動に対して弾圧するため加えられた不利益処分であり、不当労働行為であるから違法である。

(三) 本件処分は、前記のとおり非常勤職員に対し審査印を交付した違法行為を解消するための手段としてなされたものであるから、処分権の濫用であり、違法である。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  請求原因2項の主張はいずれも争う。

三  被告の抗弁

1  本件非違行為に至る経緯

(一) 昭和四七年七月二四日「恩給法等の一部を改正する法律」及び「戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律」が公布され、同年一〇月一日から年金恩給等の年額が増額されることとなり、同年七月三一日、郵政省貯金局長は熊本地方貯金局長に対し、地方貯金局における年額改定事務の取扱いについて通達した。

熊本地方貯金局長は、同通達に基づき、同局における年額改定事務処理運行計画を立て、組合に対しても、その概要(対象件数、処理期間、超勤時間、非常勤職員雇用人員及び受給者原簿、給与金支給票の更新事務手続等)を説明するなどして、同年九月上旬ごろから同事務に着手し、同事務は運行計画に従つて順調に処理されていた。

(二) ところが、同年一一月に至り、全逓は、スト権奪還、処分撤回、労務政策変更、勤務時間短縮などの年末諸要求を掲げて、いわゆる秋期年末闘争を展開し、全逓中央執行委員長は、傘下各級機関に対し、同月一五日指令第三六号を、同月一六日指令第三七号を発出し、同日以降無期限の時間外労働拒否戦術及び強力順法、強力業務規制闘争の展開並びに強化をそれぞれ指令した。

これらの指令を受け、組合は、同日以降の三六協定の締結を拒否した。このため、前記年額改定事務についても、熊本地方貯金局職員は時間外労働に従事しなくなつたばかりか、同月一五日までは常勤職員によつて勤務時間内にも処理されていた審査事務が、翌一六日以降はほとんど処理されない状態となつた。これらの結果、多数の非常勤職員によつて処理された受給者原簿、給与金支給票が、同日以降はほとんど審査されないまま積滞が累増していつた。

(三) このような異常事態の発生により、年額改定事務の一部である審査事務が、既に任命されている常勤職員の審査員のみでは円滑な処理が不可能となつたため、被告は、非常勤職員にも審査事務を行わせることとし、同月二〇日所定の手続を経て、元熊本地方貯金局局員で年額改定事務の経験が長く同事務に精通している恩給課勤務の非常勤職員五名を審査員に任命し、審査印を交付した上、年額改定の審査事務に従事することを命じた。

(四) この措置に対し、組合員多数は、非常勤職員を審査員に任命したことは「熊本地方貯金局審査員任命規程」に違反するなどと主張して、前同日以降同月二五日昼まで、同月二三日を除き、連日にわたり、昼の休憩時間あるいは勤務時間終了時に、熊本地方貯金局四階の恩給課事務室等において、亀井恩給課長に対して抗議を繰り返していた。

2  本件非違行為

熊本地方貯金局においては、毎日事務終了後、局長、次長以下各課長らの出席のもとに、各課の業務運行状況報告並びに業務進行上の問題について対策等の協議を行うため定例の進行管理会議が開かれていたが、昭和四七年一一月二四日午後五時五分ごろ、亀井恩給課長が右会議に出席するため、同局管理課管理係長赤星光春とともに、同局四階恩給課事務室の自席から右会議開催場所である同局二階の次長室に向かつたところ、原告は同時七分ごろから右恩給課事務室中央通路において、数名の組合員とともに同課長らの通行を阻止し、更に、非常階段をかけ降り三階事務室中央通路を同事務室出入口に向かつて行つた同課長らの後を追いかけ同出入口ドア付近において両手を拡げその行手前面に立ちふさがり、同所にかけつけた他の組合員三名とともに、同所付近に並んでスクラムを組み、同課長らの再三にわたる制止に対し、「こそこそ逃げるな。」「恩給の部屋に帰れ。」などとば声を浴びせ、その通行を阻止し、更に引き続き、同所に集まつてきた多数の組合員とともに同所付近をふさぎ、同課長らに抗議を続け、その際、被告名による解散命令が出されたにもかかわらずこれを無視し、同日午後七時一一分ごろに至るまで前記組合員とともに同課長らを取り囲み、執ように抗議を続けた。

以上のように、原告は、上司である亀井課長らの行手前面に立ちふさがり、スクラムを組むなどしてその通行を阻止し、また被告の解散命令を無視して、多数の組合員とともに、上司に対し執ように抗議するなど長時間にわたり上司の通行を阻止し、主導的役割を演じて会議出席を妨害するという非違を行い、職場の秩序を乱したものであり、これらはいずれも国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であり、国家公務員法八二条三号の懲戒戒告事由に該当する。

四  抗弁に対する原告の認否

1  抗弁1項(一)、(二)、(四)の各事実は認める。

2  抗弁1項(三)の事実中、被告が一一月二〇日に恩給課勤務の非常勤職員五名を審査員に任命し、審査印を交付した上、年額改定の審査事務に従事することを命じた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

3  抗弁2項の事実は否認する。

一一月二四日午後五時過ぎ、組合員の亀井課長に対する職場交渉の展開中、赤星係長が同課長の腕をとり、引きずるようにして同課長席から非常階段を使つて三階事務室出入口へ連れ去つたため、原告ら組合員は、前日までは午後五時三〇分ごろまで組合員の言い分を聞いていた同課長の突然の右異常行動に驚き、交渉を継続すべく同課長の後を追つたところ、同課長が三階事務室出入口付近で転倒したため、原告は同課長らに追いつき、交渉を要請し、そこに他の組合員が集まり、再び交渉を継続したものであり、その間原告はもちろん他の組合員もスクラムを組んだり、同課長らに身体を接触したこともなく、平和的方法によるもので、正当な組合活動の範囲を少しも逸脱していない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1項の事実(原告の経歴及び本件処分がなされたこと)については当事者間に争いがない。

二  まず、抗弁1項の本件非違行為に至る経緯について判断する。

1  年額改定事務処理について

抗弁1項(一)の事実については当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば以下の事実が認められる。

恩給法及び戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部が改正され、年金恩給等の年額が改定されると、裁定庁から、年金恩給等の給与金を受給者に支給する支給庁に対し、改定証書交付通知書等が送付され、それに基づき同庁において受給者原簿及び給与金支給票等を新たに作成し、右年額改定に伴う一期ごと(一年を四期に区分)の支給額等の計算を行い、受給者原簿等の所定欄に記入した後、審査員に任命された職員が右事務を審査した上、新支給票等を支給郵便局に発送する。以上の次第で年額改定事務が処理されるのである。ところで、支給庁は裁定庁から改定証書交付通知書等を受理次第速やかに年額改定事務に着手し、最終受理よりおおむね一か月以内に以上の各事務処理を終了しなければならないが、例年一月期支給の恩給は、受給者に便宜を図るため一か月繰り上げ一二月に支給するのを常としていた。

昭和四七年七月二四日公布の恩給法等の一部改正による年額改定事務処理について、熊本地方貯金局においては、同年七月三一日付け郵政省貯金局長通達に基づき、同年九月から同年一一月中旬までの間は、運行計画に従つて順調に処理された受給者原簿、給与金支給票について、常勤職員の審査員が勤務時間内及び時間外(超過勤務)にその審査事務を処理していた。

2  非常勤職員を審査員に任命した事実について

抗弁1項(二)の事実及び同項(三)の事実中、被告が昭和四七年一一月二〇日に恩給課勤務の非常勤職員五名を審査員に任命し、審査印を交付した上、年額改定の審査事務に従事することを命じた事実については当事者間に争いがない。

そして、<証拠略>を総合すると次の事実が認められる。

熊本地方貯金局においては、従来、常勤職員の中から審査員を任命し、年額改定事務の一部である審査事務を処理させていたが、審査事務を残すだけとなつた受給者原簿、給与金支給票が昭和四七年一一月一六日以降はほとんど審査されず、右審査事務は停滞を来していた。

そのため、当時全逓の掲げていたスト権奪還等の年末要求スローガンからして常勤職員の審査員のみでは円滑、迅速な審査事務の処理は不可能であると考えた被告は、勤続三年以上で当該事務の経験六か月を超え事務に精通し成績優秀かつ珠算有級者とする審査員任命基準と同程度の能力を有すると認められる者であれば、常勤職員同様非常勤職員を審査員に任命することは、郵政省職務規程一八条、年金恩給等取扱規程七条、熊本地方貯金局審査員任命規程により、被告の権限内の行為であると解し、前記審査事務の停滞を速やかに解消すべく、昭和四七年一一月二〇日、右能力を有するとして、もと同局の一般職員であつた非常勤職員岩城静子(当時非常勤職員経験年数一一年)、杉本文江、下津ナツエ、大野サヨ(以上いずれも同一〇年)、三好鉄子(同五年)の五名を審査員に任命した。

3  右審査員任命の適法性について

<証拠略>によれば、郵政省職務規程一八条二号により所掌事務に関し上局の定める業務取扱方法の範囲内で業務取扱方法を定める権限を有している地方貯金局長の所掌事務である年金恩給等の業務取扱方法等については年金恩給等取扱規程が制定され、同規程七条において原簿支給票及び一時金原簿の記載事項等の事務審査については取扱者以外の者が審査しなければならない旨規定されているが、審査すべき者(審査員)の資格、要件等については何ら規定はないこと、ただ、被告が定めた熊本地方貯金局審査員任命規程三条には、勤続三年以上でかつ当該事務の経験六か月を超え事務に精通し成績優秀、珠算有級者から主管課長及び業務課長が詮衡の上局長が審査員を任命すると規定されていたことが認められる。

右認定事実によれば、審査員任命は各地方貯金局長の権限であり、その裁量に委ねられていると解され、非常勤職員を審査員に任命することが禁止され右任命が裁量権の逸脱になるとは解されない。けだし、前記熊本地方貯金局審査員任命規程一条一項が、「審査員は、所掌事務につき定規正例に合致することを審査し、過誤を発見することによつて取扱いの正確を期し、事務の円滑な運行に資することを使命とする。」と規定していることから、迅速かつ正確な所掌事務の処理がなされるために審査員制度が設けられており、審査事務は審査員が実質的に当該事務に精通しておればその目的を達成できるものと解されるのであつて、受給者に多大な不利益を及ぼすとともに事務の非能率化を来すおそれがある場合に、右事態を回避するための解決策として、当該事務に精通しその能力を備える非常勤職員を審査員に任命することにつき、右任命規程に非常勤職員を審査員に任命できる旨明記してないという形式的な面のみをとらえて、右任命が規程に違反し裁量権を逸脱するから違法であるとする議論は、審査員制度の右趣旨にかんがみ、本末転倒のそしりを免れないからである。

したがつて、前記非常勤職員五名を審査員に任命した被告の行為をもつて、裁量権の逸脱と認めることはできない。

なお、<証拠略>は、年額改定事務の処理計画を変更する場合はあらかじめ組合に提示する旨の合意が当局、組合間にあつたのにかかわらず、その提示がなかつたことが、被告の前記審査員任命行為とともに、組合員の大きな不満であつたものであり、本件の背景に存在する旨証言するが、前判示のとおり、右審査員任命行為に違法はないと解されるし、仮に右合意があつたところで、さきに認定した経過から見て、右任命行為が年額改定事務処理計画自体の変更とは認められないから、その不満から発した行動を正当化する事情とはなり得ないものといわねばならない。

4  右審査員任命に対する組合員の対応について

抗弁1項(四)の事実については当事者間に争いがない。

また、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。

本件当時、熊本地方貯金局においては、毎日の勤務終了後、同局二階の次長室において、局長、次長以下各課長らの出席のもとに各課の業務運行状況の報告並びに業務進行上の問題についてその対策等の協議を行うため定例の進行管理会議が催され、前記恩給、年金の年額改定事務の円滑処理が右会議の重要問題となつており、右年額改定事務担当の恩給課長の出席は不可欠であつたところ、前認定のように昭和四七年一一月二〇日非常勤職員を審査員に任命したことから、組合員は亀井恩給課長に抗議を繰り返していたため、同月二四日の勤務時間終了後の進行管理会議の開始時刻は三〇分遅延するに至つた。

ところで、同年七月まで同局においては組合分会役員と現場の各課長との間に話合いの場(いわゆる課長交渉・分会交渉)が存在していたが、当局はそれを正規の労使間の交渉とは認めず、現場の課長に組合との交渉権限を与えていなかつたことや種々の紛争を発生させていたため、右交渉に応じない方針をとり、同年八月以降、局側は管理課長が中心となり、組合側は支部執行委員、当該支部分会担当執行委員などがメンバーとなつた拡大窓口において労使交渉を行うこととし、また、労使間の日常的な問題の話合い、団体交渉事項整理を行うものとして、管理課長と組合の交渉委員との間で窓口と呼ばれる交渉ルートを置いていた。

しかして、前記非常勤職員を審査員に任命したことに対する組合の抗議を察知した森川管理課長は、組合支部長らに何回となく右審査員任命の件につき窓口において話し合うことを申し入れたが、組合は当該課長(恩給課長)を中心に同課組合役員を加えた交渉を要求し、これに応じなかつた。

三  次に本件非違行為について判断する。

<証拠略>を総合すると次の事実が認められる。

昭和四七年一一月二四日勤務時間終了後の午後五時ごろから原告ら組合員が亀井恩給課長席付近に集合し、次第にその数が増え、非常勤職員を審査員に任命した件につき抗議を行つたりした。同五時五分ごろ、前日の進行管理会議開催時間が遅延し会議に支障を来したことから、当日の会議開始時刻に恩給課長が間に合うよう同課長を迎えに行つた赤星管理係長は、同課長に対して進行管理会議に行くよう促し、同課長とともに会議場所である二階次長室に行くため恩給課長席横の西側階段に向かつたが、その行く手に原告が立ちふさがつて進路をあけようとせず、中央通路を経て中央階段方面へ向かうべく同室中央通路の原簿庫側の柱付近まで赴いたのに対しても原告ら数名の組合員が再度その進路を妨害し、赤星係長及び同所付近に様子を窺いに来ていた森川管理課長が右組合員らに対し恩給課長が進行管理会議に出席するから進路をあけるよう再三申し向けたにもかかわらずこれに応じなかつた。

そこで、赤星係長は亀井課長の腕をとり、先導しながらあいていた通路を通り、同課長席横の階段を三階に降り、第六貯金課、第二貯金課事務室を経て中央階段の第一貯金課事務室出入口付近まで来たところ、後ろから追いかけて来た原告に追いつかれた。原告は、ドアと出入口の枠に手をかけて同課長らの進路に立ちふさがり、「何故黙つて逃げたか。」とか、「恩給課に帰れ。」などと抗議し、間もなく中央階段を四階方面から降りて来た十数名の組合員と合流し、同課長らに向き合う形で数名とスクラムを組み、進行管理会議に行くから通すよう再三にわたり申し向けた同課長らの通行を妨害したが、その場に多数の組合員が集まつて来たこともあつて数分も経たぬうちにスクラムは自然に崩れたものの、同課長らの通行を阻止し続けた。午後五時三〇分ごろになつて、中央階段の踊り場付近に来ていた森川管理課長が、右組合員らに対し二、三回にわたり被告名による解散命令を発したが、原告らはこれにも従わず、赤星係長を通すとはいうものの、亀井課長を通す気配を示さなかつた。かような状態が午後七時一〇分過ぎまで続き、その後原告は、同所付近にいた組合員らに対し「本日は協力ありがとうございました。明日からも徹底的にやります。」などとあいさつし、他の組合員に音頭をとらせ、その場にいた組合員全員で「団結頑張ろう」のシユプレヒコールを三唱し、その後原告を含めた右組合員らは解散した。

なお、当日の進行管理会議は実質的には行われず、赤星係長から原告らによる亀井恩給課長に対する抗議の概要が報告されたのにとどまつた。

<証拠略>中、以上の認定に反する部分は、<証拠略>に照らし、いずれも採用し難い。

四  そこで、本件処分の適法性について判断する。

前記認定のとおり、本件非違行為の存在は認められるのであり、いわゆる課長交渉は正規の労使間の交渉ルートでない上、非常勤職員を審査員に任命することは地方貯金局長の正当な権限内の行為と解されるのであるから、右審査員任命問題について原告ら組合員が亀井恩給課長に対ししつように直接交渉あるいは抗議すること自体筋違いのことといわねばならないが、その点を差し置いても、恩給課長が進行管理会議に出席することは同課長の業務の一環であり、右会議に出席しようとする同課長に対し、原告ら組合員が右審査員任命の件につき話合いを強要し、右会議出席のため会議室に向かおうとした同課長の通行を二時間余にわたつて妨害し、右会議を阻止したことは、到底正当な組合活動とは認められず、再三にわたる被告名の解散命令をも無視し、しかも右組合員らの行動につき、原告は主導的役割を果したものであるから、原告の行為は国家公務員としてふさわしくない非行であると評価できる。

したがつて、原告の右行為を国家公務員法八二条三号に該当するものとして、被告が原告に対し、懲戒処分たる戒告に付したことは社会観念上著しく妥当を欠くものといえず、しかも右処分が組合活動を弾圧するために加えられた不当労働行為であると認めるに足る証拠はないし、被告が非常勤職員を審査員に任命し、審査印を交付することが違法でない以上、右処分が違法行為を解消するための手段としてなされたものと認められないことはいうまでもなく、本件処分が懲戒権者である被告に委ねられた裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものと判断することもできない。

五  以上の次第であるから、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀口武彦 塩月秀平 加登屋健治)

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